なぜ英単語の発音は綴り通りじゃないのか?英語史の大事件「大母音推移」について解説!

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簡単に結論を言うと、英語は「昔のルールで書いて、今のルールで読む」ケースが多いから。
なんやねんそれ、という感じですが、このようなことが起こった理由が”大母音推移(Great Vowel Shift)”。

様々な要因により、強勢のある長母音の発音が大きく変化した出来事です。
これについて、歴史的な背景と実際にどのように変わったのか、その影響を受けた単語の例を紹介していきます!

英語学習で立ちはだかる”謎スペル””謎発音”を、ちょっとでも受け入れられるようになると思います!

※おことわり
本記事は英語学習者向けの入門として”かなり”単純化して書いています。より正確な情報については英語史・歴史言語学などの原典をご確認いただきますよう、お願いいたします。

目次

大母音推移(Great Vowel Shift)とは?

1400年~1700年頃に発生した”英語の母音の発音が一気にズレた歴史的変化”のこと。
スペルはそのままで、発音だけズレる、という出来事がありました。

どのようにズレたかというと、母音が少し上にズレたイメージ。
簡易的に説明するとこんな感じ。

i:イー → アイっぽい発音
e:エー → イーっぽい発音
a:アー → エイっぽい発音
o:オー → オウっぽい発音
u:ウー → アウっぽい発音

ちなみに、何が上で何が下か、というのは、その母音を発音するときの「舌の位置」。
つまり、大母音推移で発音するときの舌の位置が上にズレた、ってことになります。

過去の発音における舌の位置をざっくり図解するとこんな感じ。
i(イー):口あまり開かない 舌が前&上
u(ウー):口すぼめる 舌が後ろ&上
e(エー):口は少し開く(iよりは開く) 舌は前だけど、iより少し下
o(オー):口を丸くする 舌は後ろ&中くらいの高さ
a(アー):口全開 舌が下

この”高さ”が上にズレるイメージです。
”i”と”u”はこれより上に移動できないので二重母音になり、それ以外の音は上の音を発音していた場所が空いたので、元の位置からスライドした、、、ということです。
とはいえ、ぴったり上の音の発音位置に収まったわけではなく全体的になんとなく上に移動した、という感じです。

音は区別できればいいので、区別できる程度に移動したようです。

なぜ大母音推移が起きたのか?

では、なぜこんなことが起こったのでしょう?
諸説ありますが、有力な説としては、ペストの流行に端を発する人の移動により各地の方言が混ざったり、上流階級の発音が流行したりしたことが理由だろう、と言われています。

どのようなことが起きたのか、簡単に見ていきましょう。

ペスト(黒死病)の流行による人口減少・人の移動

14世紀(1300年代)、ヨーロッパではペスト(黒死病)が流行し、人口の約30~50%が死亡したと言われています。
これにより労働力が激減し、至る所で労働力不足が発生します。
そのため、もともと同じ場所で農業を営むことができていた(土地に縛られていた)人たちが、労働力を求めるところに集まるようになり、以前より人の移動が盛んになりました。

人の移動による方言のミックス

それまでそれほど活発でなかった人の移動が、ペスト(黒死病)の流行により活発になり、元々別の地域にいた人たちが交流するようになりました。
どうやら、その時の彼らの方言(言語)は互いにかなり通じにくい場合もあったと言われています。

特に、商業・政治の中心であったロンドンにはより多くの人が集まり、さまざまな地域の方言・言語が混ざり合いました。

混ざり合った結果、それぞれの人が互いに音を近づけていった結果、母音が徐々に変化していったとされています。

上流階級・都市文化の影響

当時、”都市=おしゃれ・権力の象徴”、”地方=田舎”のイメージがあり、都会の話し方が流行したようです。
田舎からロンドンに出てきた多くの人が、ロンドンの話し方を真似る、、、といったことが起きたのは、想像に難くないですね。

なぜスペルは変わらなかったのか

方言が混ざり合うことで、母音が徐々に変わってきたことを見てきましたが、ではなぜスペルは発音に合わせて変わらなかったのでしょうか。
一緒に変わってくれれば、謎スペル・謎発音も減ったのに、、、、

印刷技術の普及

理由は”印刷技術の普及”です。
もともと中国で発明された活版印刷がヨーロッパに伝わり、15世紀半ばにヨハネス・グーテンベルグが聖書を印刷しました。

そして、その技術を学んだウィリアム・キャクストンという商人が、1473年にイングランドで本を印刷し、1476年にはイングランドで初の活版印刷所を開き、イングランドでも活版印刷が普及していきました。

まさに発音側では大母音推移が起き始めた頃でした。

印刷による”大量のコピー”の出現

なぜ印刷技術が普及するとスペルが変わらなくなるのでしょう。

手書き時代は、人によってスペルが違うということが往々にしてありました。
しかし、印刷ができるようになると、最初に書かれたものと同じものが大量にコピーされるようになり、同じスペルが大量に出回ります。

つまり、それまでは”正しいスペル”というものが曖昧だった中、印刷物の普及により”このスペルが正しいっぽい…?”という感覚が広まったのです。

キャクストンもスペルのブレに悩み、ロンドン周辺のスペルを採用したと言われています。

スペルの固定

大母音推移が始まった頃に普及した印刷技術の影響でスペルが固定し始め、最終的にスペルが固定されたのでは?と言われているのが、1755年のサミュエル・ジョンソンの辞書です。

当時の辞書に不満があったロンドンの本屋業界から辞書の編纂を依頼し、出版されたもので、英語の歴史の中で最も影響力のある辞書の一つとされています。

大母音推移が始まった頃に固定し始めてしまったせいで、発音に合わせたスペル変化が起きなかった結果、今日の英単語には謎スペル・謎発音が多く残ってしまいました。

また、印刷技術の普及以外にも、教育制度や官僚制、出版業界の慣行など複数の要因が重なり、スペルが固定化していきました。

大母音推移の影響を受けた単語の10選

ざっくり比較ですが、大母音推移の影響を受けたとされる単語の例を挙げます。
こう見ると、ローマ字読みに慣れている日本人としては昔の発音のほうが見たまんまだなあ、と思ってしまいますね。

※「昔の発音」は中英語の再建音を、日本語のカタカナで非常に大ざっぱに近似したものです。

単語昔の発音(ざっくり)今の発音
timeティームっぽいタイム
nameナーメっぽいネイム
houseフースっぽいハウス
seeセーっぽいスィー
meetメートっぽいミート
goゴーっぽいゴウ
bootボートっぽいブート
foodフォードっぽいフード
mouseムースっぽいマウス
makeマークっぽいメイク

大母音推移の影響を受けていない単語があるのはなぜ?

とはいえ、例えば”machine”のように”i”が”イー”の発音のままの単語もあります。
これはなぜなのでしょうか。

大母音推移のあとに他の言語から入ってきた

先ほど例で挙げた”machine”はフランス語由来の単語です。
大母音推移のあとに英語に入ってきた単語とされており、影響を受けませんでした。

大母音推移でも変わらなかった

大母音推移は英語の発音に多大な影響を与えた事件でしたが、すべての単語に影響を与えたわけではありませんでした。
前後の音やアクセントなどにより、昔の音を保ったまま現在に至った単語もあるようです。

綴りがあとから意図的に変更された

実は、”ラテン語やフランス語の語源を意識して、ラテン語っぽいスペルにしたい”という一部の学者の以降により、スペルが変更された単語もあります。

“debt”の”b”や”receipt”の”p”などがそれにあたります。

英語学習者を悩ませる謎スペル・謎発音は歴史の体現者

ここまで見てきた通り、英単語の謎スペル・謎発音の原因を辿ると、ヨーロッパの歴史における大きな出来事が関わっていることがわかりました。
英語学習者からするとややこしくて仕方がないですが、そういう歴史があったんだなあと思うと少し興味を持てるのではないでしょうか。

英単語の意味・スペル・発音をただただ覚えるのに飽きてしまったら、語源を調べてみると面白いと思います。

この記事以外にも、ややこしい英単語について解説した記事を書いていますので、ぜひ読んでみてください!

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